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2011

2011年度、ALLOTMENTトラベルアワード受賞者は、平川祐樹さん

2011年度ALLOTMENTトラベルアワード”は全国から47名の作家の方々から応募が有りました。2011年度審査員の丸山直文、近藤正勝による厳 正な審査の結果、平川祐樹さんの受賞が決定いたしました。平川さんは、本トラベルアワードの賞金で2012年、ドイツ、シュトゥットガルトのアーティスト インレジデンスに滞在中にサイトスペシフィックなビデオ作品を制作する予定です。

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ALLOTMENTトラベルアワード2011:受賞者:平川祐樹 / 名古屋市

略歴:

1983年愛知県名古屋市生まれ。2008年名古屋 学芸大学大学院メディア造形研究科修了。現代の物語(ナラティブ)をテーマに、映像と場所・空間の関係性を基に作品を制作している。2011年秋よりアカ デミー・シュロスソリチュード招聘作家としてドイツに滞在予定。

主な展覧会:

2010 「CINESONIKA」 Simon Fraser University Theater、カナダ
2010 「あいちトリエンナーレ(企画コンペ) 」愛知芸術文化センター, 愛知
2010 「浮森」 Standing Pine – cube, 愛知
2009 「Electrofringe 09」ニューキャッスル, オーストラリア
2009 「白昼夢」愛知県美術館ギャラリー, 愛 知
2009 個展「乖離するイメージ」 Standing Pine-cube, 愛知
2009 「第12回文化庁メディア芸術祭」国立新 美術館, 東京
2007 「神戸ビエンナーレ(アートインコンテ ナ)」メリケンパーク, 兵庫

WORKS:

© 平川祐樹


総評 – 丸山直文 (まるやま なおふみ) / 美術家

©安野太郎

©安野太郎

今年で第2回となる「ALLOTMENTトラベル・アワード」の審査を引き受けることになった。昨年末に審査を依頼された時は、その主旨には賛同するものの引き受けるのには若干躊躇してしまった。
その理由として「ALLOTMENT」は既に一定のキャリアのあるプロフェッショナルな作家を対象にしているコンペティションであるという点で荷が重く責 任重大であると思えた。また作家が作家を選ぶというのは同業種だからこそ、どうしても自分の仕事と照らし合わせてその仕事の重要性を考えてしまう傾向があり、どこか評価基準が狭くなり客観性に乏しい評価になるのではないかという危惧もあった。しかし考えてみれば客観的な評価などというのは何処にも存在するはずも無いであろうし、既に一定のキャリアのあるプロフェショナルな作家の作品と制作に関わる考え方を審査という形ではあるものの、知る事が出来るという のは贅沢な経験であり、自分自身にとっても勉強になるという思いもあって引き受ける事にした。

©福田良亮 

©福田良亮

さて今年度の応募者は47人ということで昨年に比べると5名少ない。しかし東日本大震災の影響を無視してこの数字を考える事は出来ないであろう。日本で制 作をしている作家にとって大なり小なり自身の表現の在り様について新ためて考えを巡らせた人は多かったであろうし、僕自身あの3月11日以降を境に前日まで描いていた作品に手を入れる事はしばらく出来なくなった。そして中には被災して制作を断念せざるおえない人もいたであろう。そのような状況の中で47人 もの作家が応募してきたのは驚きであった。

応募に集まった作品の内訳は写真や映像(動画)の作品が最も多く、次にその旅行先に行ってリサーチをしたりモノを収拾したりして作品を作り上げるタイプ の作家が多かったように思う。そして昨年もそうだったらしいのだが絵画・彫刻といった作品は若干少ないように思えた。しかし現在のアートシーンの中で絵 画・彫刻が以前のように美術の中心に君臨し、美術界全体を牽引しているわけでは無いであろう。現状をリアルに俯瞰すれば絵画・彫刻が少ないのは当たり前の 事のようにも思える。

©田中和人 

©田中和人 


今回初めて審査に関わったわけだが、全体的にレベルが高い印象を受けた。既に何人かの作家の仕事を僕は知っていたし、学生を応募対象から外し応募年齢にも 幅を持たせたからなのかも知れないが、現在という時代は感じさせつつも、時流に左右されない地に足の着いた作家が多かったように思う。

審査員総評で上位に上った作家は城戸保氏、安野太郎氏、福田良亮氏であった。城戸氏の写真はシンプルで力強く近年多く見られるスナップ 写真の様な傾向とは異なり硬派な印象を受け好感が持てた。また安野氏の言葉と映像を独自な方法で繋ぐ「音楽映画」なるユニークな仕事も議論の対象になり好評価であった。またペインティングでは福田氏の幾何学的な作品はタイトルから風景を描いたモノのように思わせるが、再現性はほとんど無く、対象を解体し独自の文法で再構築しているような仕事が興味深かった。

©池崎拓也

©池崎拓也

個人的には田中和人氏の金箔の透過光を用いて撮影する幻想的な写真にも興味をそそられた。また派手な仕事では無いものの筆のタッチを生かしながら色面を塗り上げる井上実氏の作品に絵画の普遍的な魅力を感じた。

また受賞候補には平川祐樹氏、水野勝規氏、池崎拓也氏の3人の名前が挙がった。平川氏と水野氏の作品は共に完成度の高い映像作品であり、平川氏の作品は特定の場所やそこに建つ構造物などが持つ歴史を作品内部へと構造化させることによって、説明的な歴史物語ではなく、抽象的な映像から意 味を覚醒させる広がりのある作品であった。

また水野氏は動く絵画と言える様な美しい映像で明解なコンセプトに裏打ちされた強度のある作品であった。そして2人とは全く異なるアプローチの池崎氏の作 品は、何処にでもある既視感のあるチープな素材を組み合わせて日常と地続きでありながらどこか日常とは切り離された浮遊した新たな世界を創り上げていた。 その素材の扱いには独特な感性を感じさせていた。候補者3人の内、誰を選ぶかは多少の議論はあったものの、コンセプトの明瞭さ・作品の質の高さ・旅の目的 などを考えると、最も相応しいのは平川祐樹氏であるだろうという事で決定した。

©水野勝規 

©水野勝規

受賞した平川裕樹氏には心からおめでとうと言いたい。そして審査をした僕が言うのも何だが、残念ながら今回はチャンスに恵まれなかった作家にはこの結果をあまり気にせずに前に進んで欲しい。

正直に話せば僕自身公募には縁のない作家なのだ。何度か応募した公募は全敗であった。落ちた時は落ち込みもした。しかし腐らずやり続ける事が何にもまして 自分の力になる。自分を信じるという事は容易な事ではない。だが僕らは自分を信じるしか無いのだと思う、何故なら創る事を止める事ができないのだから。


総評 – 近藤正勝(こんどう まさかつ) / 美術家

©若林勇人

©若林勇人

今年で第2回目の「ALLOTMENTトラベル・アワード」は東日本大震災が日本を震撼させる中、応募期間を6月15日迄延期しての締め切りとなった。そんな中全国から47名の優秀な作家から応募が有り、力強く前進する意志に触れる機会をいただけたことは、私にとってとても喜ばしいことであった。

昨年に引き続き応募内容も興味深いものが多く、審査する上で何度も読み返しながら丸山直文氏と共に熟慮した。今年も写真作家の応募は多かったが中でも、城戸保、若林勇人の作品は、写真本来の持つ力を信じて対象に真正面から対峙している点で力強い。

また絵画では躍動する海の波紋や水中の生命を大きなキャンバスに描き込む矢部真知子の作品や、吉田夏美の「Beautiful Limit/混沌への冒険」100mの超パノラマ絵画は実際にそれを見てみたいと思わせる作品である。また福田良亮の絵画は、具象の形態を絵画的に追いつ めながら整いを見せたり壊れたりする様子が記録された面白い作品である。

インスタレーション作家では牛島光太郎の作品「意図的な偶然」が議論となった。彼は歴史に残る必要の無い日々の生活、流れ去って行く日常の一片を拾い集 め、そこにユーモアながら哲学的なテキストを添えて作品としている。またイノウエみは、自身の行為(声を出す、雨に打たれるなど、)によって、過ぎ去る時 間の中で世界を認識し記憶しようとする。この繊細な行為を繰り返して行く先に何が有るのか大変興味深いと感じた。

©矢部真知子

©矢部真知子

最終審査に残ったのは、映像作家の水野勝規と平川裕樹、それにインスタレーション作家の池崎拓也であった。水野勝規の映像は風景を対象にしながら限りなく 絵画に接近し、美術の歴史とメディア表現の接点を探っている。また平川裕樹の作品はとてもシンプルなイメージを構成しながら、そのイメージの背後に歴史や 意味を確りと捉え、サイトスペシフィックな展示をすることで新たな意味を模索しょうとする。池崎拓也のインスタレーションは現代の物質文化にあふれるチー プな素材(プラスティックシートやゴムボール)を使って、幾何学模様や記号的要素をベースに文化や神話までを表現しょうとする。

©牛島光太郎

©牛島光太郎

最後、審査員の両者で平川氏か池崎氏のどちらかということで検討をした、制作旅行:行きたい場所と理由を読 むと、池崎拓也は台湾へ行き、島文化、祝祭文化をリサーチしながら、東アジア圏の玄関口としての台湾の海で資を料集めて制作するという内容。また平川裕樹 はドイツのシュトゥットガルトで、世界の各都市がグローバル化してその特質を失って標準化して行く中、“場所と意味“についてハイデッカー以来の哲学的な 問題として考え続けるドイツで、その問題を考えながら、都市を撮影しサイトスペシフィックな作品を制作するという内容であった。両者甲乙付けがたい内容で あり最後まで悩んだが、このトラベル・アワードへ2度目の応募となった平川裕樹を受賞者と決定させていただいた。

©平川祐樹

©平川祐樹


2011 Traval Award データ

ALLOTMENTトラベルアワード2011データ

応募総数:計47名
写真:13名、ビデオ:3名、彫刻:5名、ペインティング(ドローイングを含む):14名、サウンド:3名、Interdisciplinary(other): 8名、建築:1名

年齢:22歳から41歳

現住所(出身地含む):東京都:16名、京都府:6名、愛知県:5名、神奈川県:4名、福岡県:2名、大阪府:1名、広島県:1名、兵庫県:1名、静岡 県:1名、沖縄 :1名、北海道:1名、岐阜県:1名、栃木県:1名、埼玉県:1名、千葉県:1名、三重県:1名、海外:1名(NYC)、不明:1名


2011 Travel Award 審査員

ALLOTMENTトラベルアワードの審査員は、原則2名で行います。また、任期を2年とし、1年ごとに新しい審査員が関わる形とします。また、審査員は、次の審査員を推薦した後、任期を終えることとなります。ALLOTMENTトラベルアワードは、応募していただくアーティストに対して、多様な評 価を与えられるようなシステムを継続的に運営していきます。2年目の2011年度は、下記のお二方が審査員となります。

丸山直文(まるやま なおふみ)

美術家
maruyama

1964 年、新潟県生まれ。1990年、Bゼミスクーリングシステム修了。1996-97年文化庁芸術家在外研究員としてベルリンに滞在。1998-99年ポーラ 美術振興財団研修生としてベルリンに滞在。東京都在住。主要展覧会:2002年「2002台北ビエンナーレ:世界劇場」(台北市立美術館)台湾。 /2003年,「ハピネス:アートにみる幸福の鍵」(森美術館)東京。/2005年「Le invasioni barbaiche」(Galleria Continua)イタリア。/2005年「朝と夜の間」(シュウゴアーツ)東京。/2008年「丸山直文展—後ろの正面」(目黒区美術館)東京。 /2009年「椿会2009 Trans-Figurative」(資生堂ギャラリー)東京など。受賞歴:2009年芸術選奨文化科学大臣新人賞

http://shugoarts.com/artists/naofumi-maruyama

近藤正勝(こんどう まさかつ)

美術家

sumitomo

1962年 愛知県生まれ。1993年 ロンドン大学 スレードスクール.オブ.ファインアート卒業。ロンドン在住。 主要展会:1993年 Annihilation/絶滅展(ビクトリアミロギャラリー)ロンドン。1997年 ジョンムーア展20(ウォーカーアートギャラリー)リバプール。2000年 Prime/記憶された色と形(東京オペラシティアートギャラリー)東京。2001年、サーフェイス(ネザーランド写真美術館)ロッテルダ ム。2006年、夢の中の自然(群馬県館林美術館)群馬。2007年 Bridge/橋 (ディビットリズリーギャラリー)ロンドン。受賞歴:1990年 ウィルソン.ステール、記念賞(ロンドン大学)。1997年 ジョンムーアス2nd賞 (ウォカーアートギャラリー)など。
http://masakatsukondo.com


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